【連載】発達障がい ~第5回~

1.前回のコラムと今回のコラムについて

前回は職業準備性ピラミッドの考えに基づいて準備を行ったが、最終的にはアルバイトを始められた事例について紹介をしました。
今回は就労準備がうまくいかなかった事例について紹介をします。
※事例の情報は個人の特定を避けるため、一部加工しています。

2.事例の概要

・年齢は20代後半(当時)で、性別は男性。
・高校時代に学校へ行けなくなった。
・高校時代に発達障害の二次障害として統合失調症を発症した。
・私の勤務先の精神科病院で、広汎性発達障害(現在の自閉症スペクトラム)、統合失調症の診断を受けた
・10年近く精神科病院のデイケアに通い、安定した通所ができるようになったので、就労を目指すこととした。

3.この方の特性

・視覚情報を用いて物事を理解することが得意である。
・一方で、先を見通して計画をしたり、物事の目的や本質を理解したりすることが苦手である。
・コミュニケーションが苦手で、目上の人に対する敬語等、TPOに合わせて振る舞うことが苦手である
・定期的に馴染みのスタッフと話すために職員の控室に顔を出す等、信頼できる他者との交流は求めている。
・幼少期からの失敗体験の多さから劣等感が非常に強い

4.経過

就労準備性ピラミッドの考えに基づき、就労準備を開始しました。この方の場合は、健康管理、日常生活管理が課題でしたが、何度か短期的な入院を経て安定してきました。対人技能についてはデイケアでの準備を予定していましたが「仕事のイメージがしやすい場所で準備がしたい」という本人の希望も汲み、就労継続支援B型事業所での定期的な作業をしながら、対人技能を身に付けて行くことにしました。

開始当初は受容的な事業所の雰囲気もあって、継続して作業を行うことができていました。また敬語を使おうとする意識もあり、適応しようとする本人の意思も感じられました。しかし通い始めて1か月程度経過した頃から、事業所へ通うことができなくなりました。同時に二次障害の統合失調症の症状が悪化し、再度入院することとなりました。

本人や事業所と話をしてみると、疲れから作業効率が落ちることで、普段のパフォーマンスが発揮できなくなり、そのことが本人の劣等感を刺激し「やっぱり自分はできない人間なんだ」という思考を強め、精神的な症状が悪くなっていったとのことでした。もちろん、健康管理の点で準備が足りなかったこともあるのですが、この方の特徴的な部分は「失敗体験の多さ」と「劣等感の強さ」でした。この劣等感の強さによって生まれる「どうせ自分はできない」というような思考が、何度となく彼の前向きな行動を阻んできました。

比較的早い段階で発達障害の特性により適応できなくなった際に、特性に応じた環境調整や対策を取らない場合は何度も同じような失敗を重ねることがあります。このような「失敗体験の積み重ね」は、自己肯定感を低下させ、劣等感を高めていきます。この劣等感は就労へ進んでいく上では障壁になることが多いように思います。失敗は人を成長させますが、失敗し続けることは人の成長を止めることに繋がります。

 

5.まとめ

今回はあえて就労準備がうまくいかなかった事例をご紹介しました。失敗をし続けることはリスクがあります。発達障害の傾向があって自分や周囲が困っている方、そのご家族の方は早めに精神科医療の専門家に相談して頂ければと思います。その後の対応についてともに考えていくことができると思います。

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