コラム

【連載】発達障がい ~第6回~

1.前回のコラムと今回のコラムについて

前回は失敗経験の多さから劣等感が非常に強く、就労準備がうまく進まなかった事例をご紹介致しました。
今回は保護者の皆様に向けて、文章を書きたいと思います。

今回この文章を書くに至ったきっかけは「子どもに発達障がいがあることを受け入れられない親御さんが多い」と支援者から相談を受けたことです。
確かに、この手の話題は支援者間で良く上がります。「もう少し親御さんが協力してくれたら」とか、「特性を受け入れてくれたら」とか、「障がいって悪いことだけでもない。特性を生かせば…」等です。
正直、私も支援している中で思うことがあります。
今回も「保護者に子の障がいを受け入れてもらうには、どう伝えたらよいのだろう」という視点で毎日思案していましたが、私の中で出た結論は「そんな魔法の言葉はない」でした。

まずは保護者の障がい受容についての一般的なプロセスを説明した上で、私なりの考察をお伝えできればと思います。

2.保護者の障がい受容について

障がいを持つ子どもの保護者には、不治の病を宣告された患者の心の動きと似たような状態が起きると言われています。
ドローターら(1975)の「先天奇形をもつ子どもの誕生に対する親の正常な反応」では、①ショック②否認③悲しみと怒り④適応⑤再起という、5つの心の動きが図のように少しずつ重なり合いながら段階的に変化していくことを表しています。

当初はショックや否定、悲しみと怒りを感じながらも、最終的には適応・再起へと向かっていくプロセスを示しています(中田,2002)。

3.障がい受容の実際

確かに、筆者の臨床経験の中でも、障がいを持つ子の保護者の多くは時間をかけて受容のプロセスに向かっていきます。
しかし、保護者の感情はそんなに単純なものではなく、ある時は子どもの将来への不安、ある時は今後の養育への不安、世間への羞恥心、子への罪悪感など、様々な感情が入り混じっており、中には長年否認し続ける保護者もおられます。
また、発達障がいの診断を青年期・成人期以降に受けた場合は尚更難しくなることがあります。
発達障がいは「見えない障がい」とも言われており、その特性や集団場面での適応困難は保護者からは見えない部分も多く(家では適応的に行動できる場合もあるため)、実感に乏しく、受け入れることは中々難しいケースが多いです。

私も一人の親ですが、やはり子に「障がいがある」と診断されたら、すぐに受け入れられる自信は正直ありません。
子にできるだけ困難がないようにと思ってしまうので、認めたくない気持ちが強くなってしまうのではないかと思います。
支援者の立場と保護者の立場はどうしても異なるので、支援する立場の時は「子の支援には親御さんに受け入れてもらうことが重要だ」と客観的に考えられますが、保護者の立場ではそうはいかないのではと思います。
しかし、発達障がいの方が就労をしたり、地域生活をしたり等、社会的な適応をしていくためには、保護者が子の障がい受容をしていくことは重要なことです。
私の少ない臨床経験の中で、子の受容は進んでいるが、保護者が受け入れてくれないと悩んでいる事例がありました。
ある日、私の所へ面談に来たお子さんが「親にありのままを認めて欲しい」と話しました。
その時私自身もはっとしましたが、障がいがあることを認めてもらえないことは、自分自身を否定されていると感じることに繋がるということです。
「ありのままを受け入れてもらっている」という感覚は、精神的な安定に大きな影響を与えるので、気を付ける必要があると感じたエピソードでした。

だからといって無理矢理に受け入れる必要があるかというとそうではないです。
受け入れられない時は受け入れられないで構わないと思います。
上記のドローターの説明でも出てきていますが、受け入れられないのが当たり前です。
大切なのは保護者が納得して子どもを支援していくということなので、受け入れられない時はその旨を医師や支援者にぶつけてもらえればと思います。
そこで支援者は保護者にとっては受け入れがたい話も含めて、様々な説明をするとは思いますが、納得いくまでとにかく話してもらえればと思います。
その上で支援者と一緒に子の支援について考えてくださると、子にとって、支援者にとって大きな後方支援になります。
時間をかけてとことん話す、保護者も支援者も受容を焦らない、その2点が大切だと考えます。

少しでも保護者の方の参考になれば幸いです。

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